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2022/08/13 13:49

2022年8月11日 南青山 SKWAT PARKにて開催されました
「空間・環境・振動 SKWATの地下から 角田俊也と広瀬豊 トークとデモンストレーション」
おかげさまで無事終了いたしました。関係者の皆様、お心を寄せてくださった皆様、感謝申し上げます。ありがとうございました。
思いがけずたくさんの方にお運びいただきました。ありがとうございます。

音に纏わる仕事をしていてLP作品なども発表しているので音楽家か?と認識されている節もある二人・・・・
しかし店主からすると限りなく美術家的なアプローチで制作する二人という認識です。

南青山skwatの地下空間で、その環境、振動をどのように表現して皆様にお伝えするのか・・・・未知数だけど絶対面白くなるはず!と思っていました!!!私なりの言葉で当日の様子をお伝えしますね。

前半
角田さんは、開催日前からこの会場となるskwatの地下空間の振動をコンタクトマイクで拾うリサーチ(フィールドレコーディング)を実施。
空調のダクト近辺、エレベーター近くの天井から突き出ている金属、床からは人の雑踏、時々この地下空間近くを通る千代田線の振動など、
私たちが感じながらも注聴していない音を拾ったリサーチの結果を披露してくれました。
大都市TOKYOの心臓音のような音を改めて聴くのは、今自分たちが居る場所を音を通して再認識するような不思議な体験。
聴覚刺激によって聴く人それぞれの脳裏に景色が生成されるコンセプチュアルアートか?と店主は思いました。
角田さんは実は「フィールド・レコーディングは「記録」ではなく「描写」として捉えるべきだ」とも言及していて、
では人間の声による母音×フィールド録音の短い断片の繰り返し(ノイズは子音を示唆) の組み合わせたによって、主観的に言葉のような意味が抽出できるのでは?という先駆的・実験的な取り組みをしています。
下記はこの新作のライナーに書かれている角田さん自身の言葉です。
「ここ数年の制作で、私は場所や環境と、どのような関係を結ぶことができるのかを探ってきた。それは、場所や環境を単に録音の対象として捉えるのではなく、それらとの主観的な交わりのような関係である。
声の聞き取りには聞く者の主観が介在する。言葉は客観的であるが、声は必ずしもそうではない。声はその人の存在と関係している。」
この「主観的」というのはとても大事なキーワード。
現代美術はアーティスト自身の主観的な経験をもとに制作・発表され、観客の主観的な思考体験によって成立しますよね。
つまり作品を通して人は見たいものを見ろ事象です。角田さんはそれを音でしている・・・・
『フィールド録音から描く実態のない風景画』の醸成過程では、作家角田俊也氏自身の、また聴く者の主観が様々に影響するということなのかもしれません。
角田さんの過去作品を全て聴いたすぐ後に、店主の閉じていた聴覚が覚醒した経験があります。角田作品を浴びた聴衆の主観的体験として記します。
 昨年オリンピック前のこと。代々木の競技場付近を運転していた時に、納期ギリギリに施設の建設を急ぐ施工業者の車両のけたたましいけれど不思議な音群が脳内にクローズアップされました。その工事現場からはとても離れて運転しているのに、そこに忙しく働く労働者の息遣い振る舞い佇まいなどが感じられて、角田作品によって私の聴覚という感覚が覚醒されたのだと確信する経験でした。
現代美術の作品を観ていても、制作者の思いとは別に、見ることによって自分になかった感覚やアイディアが降りてくるという覚醒経験がありますね。角田さんは音を通してこうした人の感性を覚醒、開くような作品を結果的には制作しているのだと思います。


後半
広瀬豊がこの会場のために作った音を流しながら、角田さんとの対話を交えて豊の仕事を紹介しました。
この日にかけた音のトレーラーはこちら(10日間の限定配信だそうです!急いで!!)
音自体は・・・角田さんの音と対極にあるような仕上がりに思いますが・・・・。
豊は20代、現在はこのskwatのある南青山近辺にある職場で仕事をしていて、青山は彼の活動領域でもあったそうです。
そういう意味ではこの音はその当時の広瀬が身体に記憶したフィールドレコーディングの集積があって生まれた音。

広瀬は常々音楽を作ろうとは(実は)思っていないとも言及しています。
夫である広瀬豊とは、私の前職である清里現代美術館時代に出会っていて、彼はそのずっと以前から現代美術やクセナキスやケージなどの現代音楽にも深い関心を寄せています。広瀬が最近放出した蔵書を整理して思ったのは、なるほど!やっぱり音楽のジャンルを超えた芸術制作として取り組んでいるのか!という印象。彼の蔵書シリーズSHOPで一覧できますのでぜひご覧ください

広瀬は自分の持つ音のサンプルを組み合わせて切り刻んて切り貼りしてその空間に合った音に仕上げていくという制作スタイル
(今はPCのソフトでできる作業ですが、オープンリールの手作業の時代も経験していて、それはさぞかしや気が狂いそうな仕事だったかと想像します。)空間に合わせた音による彫刻的作品だともよく言っています。
今年相次いで発表された
Yutaka Hirose 広瀬豊  Nostalghia 2 × Vinyl  2022 Arcangelo Nostalghia CD 2022 Arcangelo


も、環境音楽とカテゴライズされていますが、豊に言わせれば個人的な音の集積。
彼の原風景(例えば幼少期に体験した安曇野の山葵園など)の記憶の集積から生まれる音に、海外の特にヨーロッパの方々はバスコ・ダ・ガマが東洋に感じたような異国情緒を主観的に生成するのかもしれず、結果として評価していただいているのかもしれません。

こうしたトークには不慣れな広瀬、慣れてはいるものの広瀬の仕事の面白さを引き出さないといけない役割を担わされてしまった角田さん。(角田さん無茶振りでした。ごめんなさい。でも仲良しだからなんとかなる!と思っちゃった。結果成りました!)
途中無茶振りが過ぎて混迷した空気も一瞬流れたのですが、最後の質疑応答で聡明な女性が総括となる素晴らしい質問をしてくださり、迷子になってしまったかもしれない会場の皆さんにもわかりやすく言語化していただきました。
本当に仕込み論客か?と思うほどのスマートさで、彼女の存在に心から感謝申し上げます。

aizawastudioの相澤 和広さんが当日の様子を全編記録に残してくださいました。いつかご紹介したいと考えています。

この11日のイベントを総括してみると
角田さんの仕事は、聴いた者の脳内に主観的に生成される音による絵画的コンセプチュアルアート
広瀬の仕事は、その空間に合わせて広瀬豊というアーティストの主観から音として生成される空間彫刻あるいはインスタレーション
と表現しても良いのかもしれません。

美術洋書のディストリビュータであるtwelvebooksの在庫が眠る倉庫でもあるskwat PARKは、大都市TOKYOの心臓音が鼓動する場所。
今、日本で最も尖った現代美術の発信基地であるこの場所で、角田俊也と広瀬豊の二人のアーティストの今を発信する機会をいただいたことに心から感謝しています。
また、ご来場いただいた皆様、関係者の皆様のご協力にも心からの感謝を申し上げます。
ありがとうございました。
店主拝